楽園を目指した2人の若者がいました。
大きい施設の中にぬるま湯の小さいプールが2つ有り、
2人がそれぞれのプールに入れられました。
プールの周りには冷たい氷が入ったバケツがいくつも並べられています。
1人はぬるま湯が心地良くて、いつまでものんびりしています。
そりゃそうです。そのほうが楽で安心できますもんね。
もう1人は怖がりながらも冷たい氷の入ったバケツに自ら手を伸ばし、
少しづつ自分のプールに入れていきます。
ちなみに、目と鼻の先にはもうひとつのかなり大きなプールがあり、
そこは氷だらけの南極のような極寒のプールでした。
半年後、、、
やはり1人はぬるま湯がよほど心地いいのか、のんびりとしています。
氷のバケツの存在には気づいていますが全く触れようとせず、
氷を入れている人を見ながら、ときおり安堵の表情まで浮かべています。
もう1人はというと、あれから少しづつ誰に言われた訳でもなく
氷を毎日少しづつ入れ続け、もう冷たい水温に慣れているようでした。
ある日の朝2人は、今のプールは新しい人間が使うので
大きいプールに移動するよう命じられました。
氷に慣れていた人間は躊躇なく大きいプールに飛び込み、
慣れた表情でスイスイ泳ぎ始めました。
もうひとりはどうでしょう?
「なんで誰も氷のプールに移るって言ってくれなかったんだよ!」
「知ってたら俺もたくさん氷を入れて慣れようとしてたのに!」
「俺はただ楽園に行きたかっただけのに!」
文句を言いながらも入ろうとしますが、
冷たすぎてつま先をいれるのが限界です。
なんとか気合で入るものの、とたんにガタガタ震えだし
体中が青ざめていくのが分かります。
急激な水温の変化に体がついていかず、
しまいには意識を無くし担架で運ばれてしまいました。
残された1人はプールを縦横無尽に泳ぎ、楽しんでいます。
さらに半年後、、、
元気に泳ぎ続けている残された彼が、また新たな移動を命じられました。
冷たい大きいプールの奥の巨大な壁が動くと、
そこには温水プールから冷たいプール、
更には温泉、サウナ、バー、マッサージルームなど
とても豪華な設備が揃ったスペースが現れました。
奥には素敵なビーチも隣接している、まさに楽園のような場所です。
「今日から君はそこのスペースを使いなさい」
残された彼は、
楽園を満喫しました。
それでもときおり、
冷たいプールに自ら入りながら。